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【特別寄稿】テキスタイルの歴史 〜温故知新〜(第1回)

歴史は繰り返し、流行もまた繰り返す。

巷ではバブル期のファッショントレンドを現代風に落とし込み、個性的に着こなす若者が増えている。バブル期のファッション自体もまた、どこかの時代の影響を受けているのだろう。

私は預言者ではないけれど、ひとつ宣言をしてみよう。何もないところから流行のファッションが生まれることはない、と。

アパレルの世界では、先人たちが紡いできた物に、また新たな解釈を掛け合わせながら、新しいカルチャーが生まれ続けている。決してゼロから生まれることはない。流行が繰り返されているように見えるのは、そういうことだと思っている。

この考えが正しければ、『先人の仕事』を知ることこそ、アパレル企業が商業的な成功を手にする「鍵」となるのだろう。

もし過去を学ばないデザイナーがいるのであれば、彼らはインスピレーションの源泉を放棄しているのかもしれない - 大恒株式会社への幾度かの取材活動と、そこで働く人々との交流を通じて、いつしか私はそのように考えるようになっていた。

テキスタイルの歴史を訪ねて

大恒株式会社は、テキスタイル製造のスペシャリストとして、先人の仕事を学び続けて今日に至る。

取引先であるアパレル企業、ファッションデザイナーが抱く『最高の一着を作りたい』という想いに応えるため、創業当時から、テキスタイルの本場ヨーロッパから最新生地の見本帖を取り寄せ、本場の技術と発想を吸収しつづけてきた。

「この見本帖を見たい一心で、取引先のデザイナーが泊りがけで訪ねてくることもあるよ」そう嬉しそうに語る大村代表。そんな貴重な資料がいま私の目の前に山のごとく積みあがっている。

1960年代以降に製造された膨大なテキスタイルに触れることができるこの資料は、有形な価値はもちろん、取引先との関係性を高め、デザイナーたちのモチベーション向上に一役買ったという意味において、無形な価値も非常に大きい。

テキスタイルの歴史を訪ねる - そう称して、私たちは資料の表紙を開いた。

膨大な資料の中から、今回は1960年代(後期)から1970年代(前期)までのテキスタイルの歴史を紹介したい。

1960年代(後期)のテキスタイル

「当時トップモードのテキスタイルといえば、先染めが主流であり、表現のトレンドです」。と大村代表は語ってくれた。
さらに当時の柄物は、織り(ジャガード)で表現することがほとんど。その技術力の高さには門外漢である私でさえ目を見張るものがある。

1950年代以降、アメリカ東部のアイビーリーグに所属する大学生たちのスタイル「アイビーリーグルック」が世界的に流行、その勢いは1960年代まで長く続いていた。
アイビーリーグルックの最大の特徴が、英国発祥のトラディッショナルなスタイル。チェックやストライプなどのトラッド模様のテキスタイルが求められ、きっちりとしたジャケットや帽子などにも使われていたそうだ。

やがて、トラッドながら「遊び心」をあわせ持ったスタイルが登場する。これこそ1960年代(後期)の最大の特徴といっても過言ではない。

不規則性をもったチェックやマルチカラー。このような遊び心のあるテキスタイルで作られた衣服に、ファッション感度の高い人々はきっと夢中になったのだろう。

  • 1966年

  • 1967年

  • 1967年

  • 1968年

  • 1969年

  • 1969年

1970年代(前期)のテキスタイル

やがて1970年代になると、ルールに縛られないことを標榜した「ヒッピー文化」がテキスタイル業界に新たな風を吹かせる。

トラディッショナルなカルチャーは下火になり、ペイズリーやジオメトリック(幾何学)などのサイケデリックな柄が流行したのだ。資料のページをめくるたびに、蛍光色のように鮮やかで刺激的な色(サイケデリックカラー)を使った表現が増えてくる様子がわかる。

私たちが何よりも驚いたのは、曲線的で複雑な模様すら織りで表現しているところだ。

「この色使いや、アールの線・・・先染めで表現できる限界かもしれません」。数多くの生地をプロデュースしてきた大村代表がこのように語るほど、当時の先染めによるテキスタイル製造は技術的にもコスト的にもギリギリの線を保っていたのかもしれない。

このような歴史を背景に、テキスタイル業界ではやがてプリント技法が大きく発展していくことになる。1970年代前半は、その転換期だったと言えるだろう。

  • 1970年

  • 1971年

  • 1971年

  • 1972年

  • 1972年

  • 1972年

  • 1972年

  • 1973年

  • 1973年

2019.02.22